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2008年03月15日

 
       まるでミュージカルか演劇か。東京コレクション5日目の14日は、その世界に自分も入り込んでしまったかと錯覚するような、テーマ設定の明確な劇場型のショーが続いた。若い世代を中心に人気があり、東京コレクションでもお馴染みとなった「ソマルタ」と「シアター・プロダクツ」。ともすれば、フロアの雰囲気や音楽などが主張し過ぎて肝心の服がかすんでしまったり、それぞれの服の示す方向がバラバラで全体として凡庸な印象になってしまったりするショーが少なくない今回。この2つに関しては、招待状に始まり、フロア設定から背景画、音楽まで含めた統一感が、服に込めた思いを伝える役割をきっちり果たしていた。 



 

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ソマルタ(08~09年秋冬東京コレクション)

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シアタープロダクツ(08~09年秋冬東京コレクション)

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ファーファー(08~09年秋冬東京コレクション)

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ユキ・トリイ(08~09年秋冬東京コレクション)

 「寒い国に住む民族」をテーマに据えた「ソマルタ」のショーは、羽を広げた青い鳥を両手で包み込む図柄のファンタジックな招待状から既に始まっていた。深い森の映像の中、温かみのあるローゲージニットのカーディガンやロングマフラーに、長い毛足のニットを編み込んだレッグウォーマーを合わせ、雪や氷の妖精を連想させるシルバーのメイクを施したモデルが登場。インナーはまるで身体の一部のようにフィットする無縫製の薄手のニット。ラメが編み込まれ、植物や鳥の文様が描かれている。チロリアンテープで縁取りしたジャケットからはフォークロアテイストも感じられる。

 やがて白一色の世界が訪れた。光を通す素材の白いワンピースやスカートに、氷や雪の結晶の形に切り取った反射板がこんもりと多数あしらわれている。髪にはティアラ。雪の女王か。

 デザイナーの廣川玉枝によると、「青い鳥」は雪を溶かすと信じられている伝説から取った。「鳥や草花のモチーフはインドの民族をヒントにするなど、多くのアイデアを入れて細かく状況設定を行いました。光を利用した新素材をスパンコールのように生地に重ねたり、プラスチックの素材を貼り付けたり、独自の技術にも注目していただければ」

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 これまでどちらかというと優しい色味の軽やかな装いを提案してきた「シアター・プロダクツ」だが、今回は一転、1980年代のポップでキッチュなイメージを鮮烈に打ち出した。テーマはその時代、一世を風靡したシンディ・ローパー。「可愛らしさに加え、服には強さがほしいと思った。キュートでポップだけれど、真の強さを持つ彼女のイメージがぴったりでした」(デザイナー・中西妙佳)

 ブロンドに赤や黄色といった鮮やかなウィッグを付けたモデルたちは、ピンクと黒をキーカラーに水玉やアルファベットをモチーフにした弾けた装いを披露した。左右、色も大きさも異なる水玉の靴を履き、胸には缶バッチをたくさん貼り付けるなど、可愛らしいアイテムをちょっぴり反抗的に取り入れているのが特徴だ。

 ショー会場は、普段から撮影によく使われる六本木のスタジオ。「タイム・アフター・タイム」など、シンディーの代表曲が流れるなか、モデルたちが実際のプロカメラマンやヘアスタイリストと共に、はしゃぎながらカタログなどに使う写真を撮影するという設定で、劇中劇の要領で髪を直したりポーズを付けたりといったシーンをそのままショーにしていた。

 ウェイティングの時間に6人のモデルが客席を回る形で示したメンズの「キングリー・シアタープロダクツ」は、ベージュや茶といったアースカラーを中心に、果物の柄をプリントするなどしたカントリー調。フルーツバスケットを手に、オレンジやキウィのチョコレートがけ菓子を振る舞った。

 趣向を凝らしたショーではあったが、残念だったのはこれらの展開を見ることができたのは一握りだったこと。立ち見も含め多くの観客が詰めかけたにもかかわらず、狭いスタジオに平面的にベンチを並べただけの会場だったうえ、ライトも一部しか照らしておらず、撮影カメラマンから苦情が上がったほど。せっかくの服が「ほとんど見えなかった」と、残念がる声もあちこちで聞かれた。

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 27才の女性デザイナー、古橋彩によるファーファーがデビューした。ナチュラルな重ね着の中に女の子っぽい可愛らしい要素を加えたデザインは、東京・下北沢あたりのストリートスタイルを思わせる。

 かぎ針編みの麻ニットやパジャマパンツ、小花柄のコットンドレスなどを重ねて、リラックスしたゆるい雰囲気をかもし出す。子供の頃から使っていたような古びたチェックの毛布コートやベッドカバー風のパッチワークジャケットに、スエードのモカシンを合わせて、トレンドのボヘミアンスタイルの気分を出してみせる。そんな重ね着の上にトラッド風のピーコートをさらりと羽織る組み合わせも東京風。ワーク調の裏原宿系や、トレンディなモード系とはまた違う、東京らしいストリートスタイル。これまでの東京コレクションにありそうでなかった系統のデザインだ。

 古橋は、東京コレクションの参加デザイナーであるチダ・コウイチのアシスタントデザイナーをしていた。

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 ユキ・トリイはパリで発表した新作を披露した。「悲しき天使」など60年代のヒットソングを背景に流し、当時のキュートでフェミニンなイメージの服を並べた。

 色は茶やモスグリーン、マスタードなどのシックで秋らしいトーン。バラ柄のダウンコートやネックラインにつけた大きなパールなどに鳥居ユキらしい華やかさが漂う。(柏木友紀、編集委員・高橋牧子)

◇写真は大原広和氏撮影

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