2009年8月14日                                                中本千晶

写真宝塚大劇場公演「太王四神記ver.2」より=撮影・岸隆子

 

写真「なぜ宝塚歌劇に客は押し寄せるのか」(小学館新書)

 

 8月14日に東京宝塚劇場にて初日を迎える星組公演「太王四神記2」。主人公の王子タムドクが、さまざまな苦難を乗り越えながら、自らの運命を受け入れ、チュシンの王へと成長していくさまは、まさに、この公演より星組のトップスターとして新たなスタートを切った柚希礼音の姿そのものだ。

 この作品は、今年1月に花組で上演された「太王四神記」のバージョン2である。花組み版との一番の違いは、花組バージョンの冒頭にある、神話の時代のファヌン、カジン、セオの伝説の場面が星組バージョンでは、まるまるカットされていることだ。

 そして、サブタイトルに「新たなる王の旅立ち」と銘打たれているように、その分を使って主人公タムドクの成長物語がより丁寧に描かれている。原作が持つ2000年の時を超えるスケール感はやや薄まった感があるが、その分、人間ドラマとしての濃さが増したといえるだろう。

 新生星組の見どころのひとつは何といっても、柚希礼音、夢咲ねね、凰稀かなめのスリートップのゴージャスな並びだ。3人ともにすらりと背が高く、目を惹き付けるスタイルの持ち主という点は共通しているが、役者としての個性はそれぞれに違う。

 往年のビッグスターを髣髴とさせる大らかさ、包容力が持ち味の柚希に対して、夢咲ねねには、いかにも「イマドキの娘役」らしい不思議な雰囲気がある。したがって、夢咲演じるヒロインのキハは、数奇な運命を背負いながらも、等身大に悩み恋するひとりの女性である。

 雪組ではAQUA5メンバーとして注目を集め、このたび組替えで二番手男役となった凰稀かなめ。柚希礼音の輝きが「紅い太陽」とすれば、さながら凰稀かなめは「蒼い月」の輝きだ。そんな凰稀演じるヨン・ホゲは、物語の後半、自らの狂気のとりこになり、滅びゆく姿こそが圧倒的に美しい。

 この3人をみて、「星組カラーの復活」を喜ぶファンもたくさんいるだろう。タカラヅカの5組には、伝統的な「組カラー」というものがある。最近は、トップスターの入れ替わりも激しいし、組替えも増えたため、その分「組カラー」は薄まったといわれる。それでも、「組カラー」を愛し懐かしむファンは多いのだ。

 たとえば「ダンスの花組」「日本物の雪組」といった具合。月組は大地真央、天海祐希といったアイドル系男役スターを輩出してきた組だ。1998年に新たに発足した宙組は、伝統色は薄いものの、長身の男役揃いのフレッシュな感じを愛する「宙組ファン」も増えつつある。

 そして星組といえば、鳳蘭に代表されるスケール感のあるトップ率いる、熱くゴージャスな組という印象。その「典型的な星組らしさ」が今、長身3人の揃い踏みで、蘇ろうとしている。

 加えて、新トップ柚希礼音は、今のタカラヅカきっての踊り手でもある。今回のフィナーレでも、本編でダンス場面が少なかった分、これでもかといわんばかりにダイナミックに踊りまくる。その姿をみていると、新生星組のこれからのショーへの期待が膨らむ。

 物語の冒頭で若き王子タムドクが歌う、星組バージョンで新たにつくられた曲「蒼穹の彼方へ」がいい。

 「鷹よ 羽ばたけ 爪を隠さずに」

 柚希は今年で入団11年め。この年次でのトップ就任は近年では珍しいスピード出世だ。まさに「若き王」の誕生だ。

 初々しくて、ちょっと荒削りで、「これから」を大いに感じさせる。そんな舞台が楽しめるのも「今だけ」。それは、受け継がれる伝統のなかで、常に新たなスターが再生するタカラヅカならではの楽しみなのだ。

 

レベル:
★★☆(中級編)
分野:
ブレイクの瞬間
対象:
新任課長から二世議員まで、新たなポジションを前に張り切ってるアナタにおすすめ。

 

 

ステップアップのための宿題:
物語の前半、世間知らずな王子タムドクがお忍びで街に出かけるシーンでのこと。名前を聞かれて思わず口ごもってしまったタムドク、花組版では街の人たちから「タムタム」と呼ばれますが、星組版では「タムドン」。トップスターのキャラを見事に描き分けたこの違いをお聴き逃しなく!

 

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プロフィール

中本千晶
フリージャーナリスト。67年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。株式会社リクルートで海外ツアー販売サイトの立ち上げおよび運営に携わる。00年に独立。小学校4年生のときに宝塚歌劇を初観劇し「宝塚に入りたい」と思うも、1日で挫折。社会人になって仕事に行き詰まっていたとき、宝塚と再会し、ファンサイトの運営などを熱心に行なう。宝塚の行く末をあたたかく見守り、男性を積極的に観劇に誘う「ヅカナビゲーター」。
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