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2008年02月04日

 フランス・リヨン近くの村にある民宿(シャンブル・ドット)に向かった。真っ暗な小さい駅で降りる。コロコロ太ったマダムが近づいてきた。「よくもまぁ遠いところから来たわね、チカコ」。予約してからメールを10通以上、交わしたベアトリスだった。「あなたの美しい地方のすばらしい味を探りたい、ついてはいろんな人に会いたい」。案内してもらえたらとの黒い腹は「おせっかい魂」を刺激したようだ。スイスにいたころは国際オリンピック委員会(IOC)なんかにボランティアで参加したけれど、最近ご無沙汰で。でも仕切るのが大好きなのよ、任せてちょうだい…。



寡黙なオリビエと饒舌なレイノー夫妻


見た目はフツーなのにおいしいオレンジ皮のチョコがけ


気取らず売られている絶品マカロン


量り売りチョコレートは100グラム6ユーロ(960円)。パリの有名店より4割安い=いずれもフランス・リヨン郊外メキシミューで

 次々届くメールには、チョコレート職人やパン職人、ホテルのシェフ、チーズ農家への訪問を取り付けたとあった。いいんだろうか甘えちゃって。「お返しはキョートで私たちを案内してくれたら」。滞在3泊の予定表をわざわざワードで送ってくれた。着く前からびっしり埋まっている。

 築100年の古い農家を改造した民宿に着いた翌日、小さな街メキシミューのチョコレート店「メゾン・レイノー」に向かった。民宿のある丘を下り、冬枯れの小麦畑を突っ走る。200メートルほどの通りの角っこに店があった。茶色の壁のガラス張りをのぞく。昔ながらというか、アカ抜けない…。白いヌガーがのぞく。卵白とハチミツを固めたフランスの伝統菓子で、パリのしゃれた菓子職人の店ではお目にかかれない。おまけにスーパーでも売っているバナナ入りチョコ飲料「バナニア」の黄色い缶も並んでいた。リヨンでは昨秋、初めて開かれたチョコ見本市「サロン・デュ・ショコラ」の「味わいとプレゼンテーション」部門で賞を取ったというが本当かな。

 お店の裏の工房に入った。「心・技・体」と漢字シールが冷蔵庫に張られてあった。シェフ・レイノーは柔道家で日本大好き。「9月から12月まではクリスマスのおかげで死にそうに忙しかったよ。日本はバレンタインがすごいんだって?」。いまは3月末の復活祭の準備で忙しい。日本で働きたいという新人職人オリビエが、卵や動物型のチョコを作っている最中だった。

 黒帯の持ち主の手仕事に見入る。オレンジ皮のチョコレートがけ「オランジェット」は初めて味わう柔らかさだった。キャラメル入りチョコも琥珀色のクリームが流れ出るほど。パッションフルーツのマカロンだってクリームがとろけそう。今まで食べたマカロンで1番、おいしい。いかつい顔に似合わないやさしい味に「あなたがヤワラの人だからか」と言うと照れていた。かなり反省した。見た目で判断しちゃいけない。

 別れ際にシェフから「そうだ、オリビエのCV(履歴書)を渡すから、どこか日本の店に送って」と履歴書3枚を託された。預かってしまったがアテはない。21歳独身、パティシエのまじめな青年です、どこかありませんか。いやいやいっそフランスのチョコレートばやりに乗っかってアイドルシェフに仕立て、マネジャーに雇ってもらおう。考えが腹黒いか…やっぱり。
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