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2008年02月19日

 ワインライター&翻訳家として活躍中の立花峰夫さんが昨年上梓した翻訳本『シャンパン 泡の科学』(白水社)を読んでいて興味ひかれる個所がありました。「シャンパンの泡の生成は、グラス内に付着している不純物、大雑把に言って紙や布からはがれ落ちた繊維がきっかけであり、こうした繊維は空気中を漂っているものがグラス中に入ってくることもあれば、洗浄後の拭きあげの際に付着することもある」という記述。で……内壁に何も付着していない完璧にきれ~いなグラスならどうかというと、シャンパンの泡はたたないそうです。神秘な泡のイメージが崩れそう~。



白水社刊の『シャンパン 泡の科学』


壮観! シャンパン好きには嬉しい光景です


リーデル社のグレープシリーズはボトルの底が鋭角(右)。ボウルの底に傷をつけ、その傷から泡を促進させるのはヴィノムシリーズ(左)


グレープ(右)とヴィノム(左)のボトル底の違いをズームで確認

●グラスの拭きあげで付着する繊維質と泡との関係?

 この本を書いたのはジェラール・リジェ=べレールさん。シャンパーニュ地方のランス大学で物理学を専攻している助教授で、泡に魅了された泡の研究者だそうです。シャンパンの大手メゾン『モエ・エ・シャンドン』社の研究部門のコンサルタントもなさっているとか。そこで今回は同書をヒントに、グラスと泡の関係について探ってみることにしました。

 3年前、ワイン仲間の紹介でビールのプロ原田豊さんとお会いするチャンスがありました。ビール愛好家の人気スポット、新橋の『キールズバー』にお邪魔したのが最初です。原田さんはここのオーナーだったのですが、今はビル建て替えのため、同じ新橋エリアに移転し、『Dry Dock』というお店を経営しています。

 その原田さんのお店のビールは泡がクリーミーで、同じ銘柄のビールを他店で飲んだ時と比べ、味わいが一味も二味も違う印象でした。グラスの壁面にも気泡はまったくありません。その秘訣について「ビールグラスは洗剤でしっかり洗浄し、ふきんでは拭かないこと。どんなに清潔なふきんでも必ず繊維質などがグラスに付着してしまうから。そして最後は冷たい水で仕上げること」と教えてくれました。原田さんの言う“繊維”、これは『泡の科学』に書いてある不純物のことですよね。

●ビールとシャンパンの泡の違い

 原田さんから教えていただいた情報をまとめてみます。

 シャンパンが密封状態でいる間は、液内の炭酸ガスは安定しています。ところが開栓することで、それまで液体を押さえ込んでいた気圧が一気に下がり、液内に閉じこめられた炭酸ガスは液内で気泡となって発散し始めます。グラスに注ぐという行為も衝撃を加えることになるので、激しく泡立って液内の炭酸ガスが放出していきます。ただ、液面から気泡にならずに静かに抜けていくガスもあります。 

 炭酸ガス含有のアルコール飲料でも、シャンパン(約5~6気圧)とビール(約2気圧)ではその泡立ち方や性質は違います。

 ビールは泡が麦芽由来のタンパク質(起泡タンパク)とホップ由来の苦み成分の影響で、泡立ってから数分間程度持続する性質があります。一方、シャンパンは泡の持続性はほとんど無く、出来た端からぱちぱち音を立ててはじけていきます。

●ビールグラスの場合は 

 ビールやシャンパンは、そのグラスの形状や状態によって、味わいに大きな変化があることがわかっています。ビールの場合、泡持ちが違うのは、グラス内壁の状態によって炭酸ガスの抜け方が違ってくるからで、完全な平滑面のグラスはビール液との接触面に(炭酸ガスが抜けてしまうきっかけとなる)くぼみや引っかかりが無いため気泡は発生しません。

 ところが、グラスの内壁がざらざらした素材だったり、脂分や汚れが付着していたり、小さな傷があると、その“部分”をきっかけにして、液内に気泡が発生し、そこから液面に向けて気泡が上昇し続け、炭酸ガスが抜けていくことになります。


 原田さんは「陶器で出来たグラスなどはビールにとっては大敵であり、グラスの全壁面から一斉にガスが抜け出してしまいます」とアドバイスしてくれました。

●シャンパングラスの場合は

 リーデル・ジャパン(株)のシニアワイングラスエデュケーターの庄司大輔さんにシャンパングラスの泡立ちについて伺ってみました。

 庄司さんは「グラス内側の表面に、ほこりやふきんの糸くずなどが残ってしまうと、その場所からも泡が立ってしまうので、全体として散漫な泡立ちになりやすいようです。ワイングラスメーカー各社のシャンパンフルートでは、その原理を逆手に取り、ボウルの底に傷をつけ、その傷からまとまった泡立ちを促進させる方法を取っています。弊社の場合、ヴィノム、ヴィノム・エクストリーム、オヴァチュア・シリーズなどがそうです。また、ボウルの底を鋭角にすぼめることで泡立ちを促進する方法、これは弊社のグレープ、ヴィティス・シリーズがそうなのですが、この2つの方法による泡立ちのコントロールが主流です。 

 また、手作りグラスのソムリエシリーズの場合、フルートグラスには“傷”がないため、お客さまから、泡が立たないと言われることがあります。その際は、(1) ハンドメイドのため、あえて傷をつけていないこと、(2)上質なシャンパン用グラスのため、泡立ち以上に、ぶどう本来の味わいやシャンパーニュ特有の香り、味わいに集中していただくようにお話しています」と説明してくださいました。

●家庭でのグラスの上手な洗い方

 最後に、庄司エデュケーターからのアドヴァイスとして、「ワイングラスをご家庭で洗う場合は、グラス専用のスポンジとふきんを用意して、最後に50~60度程度のお湯にグラスをくぐらせることをおすすめします。ただし、グラスは耐熱ではないので熱湯は避けてください」とのことでした。

 シャンパンとグラス、ビールとグラス。今後、泡ものをいただく時は、グラス内部に十分な配慮が必要ですね!
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