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2009年7月13日                                                     筆者 多田千香子

写真エッフェル塔前で13人で持ち寄りパーティー。チーズにパン、生ハムに手製パスタ…

写真木イチゴ味のクロワッサン。甘酸っぱいアーモンドクリーム入り

写真ピエール・エルメのマカロン。全種類を大人買い=いずれもパリ15区

 仏東部アルザスからTGV(高速列車)に2時間余り乗る。夏のソルド(バーゲン)2日目のパリに乗りこんだ。成田やセントレアから着いたばかりの仲間と合流する。

 昨夏からパリと田舎の民宿を仲間たちと訪ねるようになった。3度目になる今回は、30、40代ばかり12人が集まった。大人の修学旅行みたい。仕事も住まいもバラバラの女性が、ひとつ屋根の下に泊まる。初対面も多い。友人同士ではないのがむしろ気楽で心地いい。

 エッフェル塔前で夕方、ピクニックすることにした。食材探しに1人、セーヌ左岸の百貨店をめざした。ヴォジラール通りを歩く。洋菓子店ピエール・エルメを通りかかった。ピクニック用にマカロンでも買っていこう。それと自分用に、クロワッサンも…。

 パリ住人時代、ここのクロワッサンが大好きだった。でもあまり買えなかった。徒歩10分で行けたのに。他では1ユーロ(130円)ほどのクロワッサンが1.6ユーロ(200円)もした。そうそう手が出ない。とっておきのドリンク剤のように、心がしおれそうになると1つだけ買った。

 いまは旅人だから少しぜいたくを。当時はなかった木イチゴ味のクロワッサン1.8ユーロ(230円)を買った。すぐ食べたい。勝手知ったる元・ご近所、交差点を渡ってパストゥール駅のベンチに腰かける。包みを広げる。ザクザク、パリパリ。やっぱりクロワッサンはパリに限るなあ。

 はらはらほどける紙のようなかけらに当時を思い出す。駅までの信号を待つ間、左手を見上げていた。エッフェル塔がかいま見えた。青になるまでの30秒、塔に向かって祈っていた。いいトシして何者でもない自分がしんどかった。ヤセ我慢してエッフェルだけに弱音を吐いた。何もかもうまくいきますように…。

 まだ願いがかなったとは言えないな。あのころと同じように祈る。ぐっときた。手のひらに三日月形を抱いたまま、ぽろぽろ涙がとまらなくなった。

 ピクニックにはパリ近郊に住む日本語教師ミホさんも呼んだ。彼女は手作りのカレー味パスタを作って来てくれた。昼間のクロワッサンの話もする。また泣けた。ダメだな、ひとりよがりだな、まったく。ミホさんは住んでいる人ならではの目をして寄りそってくれた。「話を聞きながら、チカコサンが数年前にパリにいたころから知り合いだったらよかったのに、と思いました。そうしたら、一緒に泣いたりできましたね」。

 気を取り直そう。12人に声をかけた。 「エッフェル塔に誓いましょう!」。時計回りに夢が飛ぶ。「職探し」「婚活する」「引っ越しする」…。あちゃー、なんだか現実的だ。横浜のナミコさんは「来春のパリマラソンを3時間30分で走る」。かっこいい。ドレスデンのマリコさんは提案した。「100万円ずつ出しあってドイツの古城を買いません?」。13人いるから1300万円か…。どうやって維持するんだろう。

 ミホさんは言った。「日本半分、フランス半年の暮らしが理想かな」。なるほどね。「私はフランス込みの旅が3カ月、残り9カ月は京都がいいな」。

 ひょっとしてやれるかも。うっかり思い始めている自分に気付く。公言マジック、かけちゃったみたい。チャラララララーン。「オリーブの首飾り」が脳内を駆ける。もっともモットーは「めざせ有言実行4割バッター」だから空振りも多いのだけれど。

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