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2009年8月21日                                         中本千晶

写真博多座公演「大江山花伝」より=(C)宝塚歌劇団

 博多座で公演中の宙組新トップお披露目公演「大江山花伝」を観て、思わず「タカラヅカの新トップコンビとは?」について書きたくなった。それほど、新トップコンビの二人が「お似合い」だったということである。

 各組の頂点にトップスターが君臨し、固定の相手役として、娘役トップが寄り添う。このトップコンビが、さまざまな恋愛模様を見せていくのがタカラヅカのお芝居の基本だ。

 したがって、新トップスターが誕生するとき、相手役たる娘役トップに誰が選ばれるのかは、ファンにとっても大きな関心の的だ。

 お披露目公演を見守る観客は、いわば、新郎新婦の入場を待つ招待客のようなもの。「どんなカップル?」「花嫁はどんな人?」…この夏の博多座でもまた、多くのファンが「大空祐飛・野々すみ花」の新トップコンビを固唾を飲んで見守ったのである。

 宙組の新トップ、大空祐飛はそのクールさが持ち味といわれる男役だ。いや、単に「クール」という一言では言い尽くせない独特のニヒルさ、厭世観…その「影」が観客を魅了する。それがまた、演出家の立場からすればさまざまなドラマ妄想をかきたてるのではないだろうか。

 「大江山花伝」の茨木童子は、そんな大空のハマリ役だ。「歌劇」誌によると、演出の柴田侑宏氏も「再演するなら大空祐飛とタイミングが合えば」とずっと思っていたのだという。都を脅かす鬼、酒呑童子(十輝いりす)を父に、人間の女性を母に持つ茨木童子は、人間にも鬼にもなれない。自らに内在する「鬼」の部分を憎み続けなければならないという哀しい宿命を背負っている。

 その茨木童子と幼い頃に愛を誓い合った姫、藤子を演じるのが、新トップ娘役となった野々すみ花だ。小柄で可憐な娘役だが、芝居がクライマックスに達したときに爆発的なパワーを発揮する、それが彼女の持ち味ではないかと思う。

 ヒロインの藤子という女性もまた、その内にはかなりの異常さを秘めている。だいたい、お互いの腕に焼き印を押して愛を誓い合うというところからして普通じゃない。しかも、もとは深窓のお姫様であったのが、火事によって両親も身分もすべてを失い、顔に醜い火傷の痕まで負ってしまう。そして、生き別れとなった茨木を訪ねてさまよい、今では渡辺綱の屋敷の下女となっている。

 お芝居の結末、茨木童子を追い詰める都の武将、渡辺綱(北翔海莉)らに向かって、藤子はただ一人、短刀を手にして叫ぶ。「私の茨木に近づかないで!」と。

 深いコンプレックスを負った二人の、互いが互いを求める心。藤子の叫びから、観客は、二人の絆が純愛という甘い言葉ではとても表現しきれないものであることを悟り、おののく。それは、常人には決して近寄ることができないほどに激しく、暗く、強い絆である。

 こうして、野々すみ花の「秘めたるパワー」が、大空祐飛の「影」を受け止めたとき、このコンビは他に類をみない強烈な魅力を発揮するのではないか。それが、「大江山花伝」を観ての発見だ。

 このコンビ、ホームグラウンドである宝塚大劇場でのお披露目作品は、映画でも有名な「カサブランカ」と決まっている(本年11月)。つぎはどんなスパークをみせてくれるのか、楽しみだ。

レベル:
★★☆(中級編)
分野:
夫婦円満の秘訣
対象:
彼氏やダンナとの相性が気になって、ついつい血液型占いや星座占い、動物占いをやってしまうあなた。
ステップアップのための宿題:
トップ娘役は、トップスターよりも下級生がつとめるのが基本。新生宙組の場合、大空祐飛が入団18年目(月組のトップスター瀬奈じゅんらと同期)、満を持してのトップ就任であるのに対し、野々すみ花は入団5年目で5組中でも最も若手。初々しいヒロインに対する「オトナの男」の包容力も、このトップコンビの見どころです。

 

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プロフィール

中本千晶
フリージャーナリスト。67年山口県生まれ。東京大学法学部卒業。株式会社リクルートで海外ツアー販売サイトの立ち上げおよび運営に携わる。00年に独立。小学校4年生のときに宝塚歌劇を初観劇し「宝塚に入りたい」と思うも、1日で挫折。社会人になって仕事に行き詰まっていたとき、宝塚と再会し、ファンサイトの運営などを熱心に行なう。宝塚の行く末をあたたかく見守り、男性を積極的に観劇に誘う「ヅカナビゲーター」。
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