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2008年01月20日

 「天王寺かぶら」「田辺大根」……。大阪で古くから栽培されてきた地野菜を、大阪府内で居酒屋を16店展開するチェーンが、人気メニューに育て上げた。生産量の少ない地野菜は味も姿も個性的で、値段も割高だが、いち早く00年に着目。農家と直接契約するなど7年にもわたる試行錯誤の末、庶民的な値段でだれもが親しめる味を実現した。



天王寺かぶらとカマの荒炊き(右)、天王寺かぶらと水菜の豆乳鍋(中央上)、田辺大根と鶏肝の和風ステーキ(中央)、田辺の大根がゆ(中央下)と田辺大根(左端)、天王寺かぶら=志な乃亭枚方店で


人気メニューに育った「天王寺かぶらとカマの荒炊き」の評判は上々=大阪市北区曽根崎2丁目で

 1月のある週末、約100席が新年会の客らで埋まった大阪市北区曽根崎2丁目の「漁師の宴 お初天神店」。メニューには「天王寺かぶらとカマの荒炊き」「田辺大根と鶏肝の和風ステーキ」など451~819円の4品が並び、次々と注文が入った。「荒炊き」を初めて食べた松原市の会社員中塚統子(のりこ)さん(41)は「かぶらは甘くて軟らかくておいしかった。他の店にはないし、また食べたい」と笑顔を見せた。

 この居酒屋を経営しているのは、守口市に本社を置く「クロスキンキ」。同社はほかに「志(し)な乃(の)亭」などの店名で計16店の居酒屋を展開している。地野菜の活用は00年、楠本政彦事業部長(60)が「不況のせいか客に元気がない。何とか大阪を元気にするメニューをつくりたい」と思い立ったのがきっかけだった。

 甘みに特徴がある天王寺かぶらや、身がしっかりしていて太く短い田辺大根は、京都で作られている京野菜のように、大阪で古くから栽培されてきた野菜の品種。府が05年から、「なにわの伝統野菜」と名付けて、農家や流通・販売業者に認証制度を設けるなどして消費拡大を図っているが、楠本さんがメニューの開発を始めた当時は、どこで手に入るかさえ分からなかった。

 1年かけて収穫量を確保できる農家を探し、河南町の農家、阪上勝彦さん(65)を見つけた。直接契約して02年から夏は毛馬きゅうりや勝間南瓜(こつまなんきん)、冬は田辺大根や天王寺かぶらを出し始めた。

 しかし、どれだけ売れるか、どれだけ取れるかも分からない上、アルバイトでも調理できるメニュー開発に苦労した。

 天王寺かぶらは最初、中をくりぬいて「ふろふき」にし、外側をそのまま器に使ったが、大きさがそろわず1個がみかんとリンゴほど違う失敗。焼いても揚げてもいま一つで、小さく刻んでしまうと脇役にしかならかった。最終的にブリ大根を参考にした荒炊きに落ち着いた。今冬の一番の人気メニューだ。

 田辺大根はおでんにしてみたが、身がしっかりして煮くずれしない特徴が裏目に出て、客は「硬い」。ブリ大根やふろふきにしたらヒットしたが、今度は量が確保できず1月初めに売り切れたこともあった。今年は仕入れの量と売れ行きとのバランスも取れている。

 こうした地野菜は、大量流通の野菜より割高なため、通常のメニューより利益率は悪いが、価格を抑えるため、葉っぱを付き出しにするなどの工夫も重ねた。取り組みが認められ、06年には優良フードサービス事業者の地域貢献部門で、農林水産大臣賞を受けた。

 農家の阪上さんは「野菜本来の原始的な甘み、苦みを楽しんでもらって、大阪の伝統を守るため、これからも一緒にやっていきたい」と話す。まとまった量を買い取ってもらえるため、収入の安定にもつながっているという。

 楠本さんは「損するようなことは出来ないけど、目先の数%の利益にこだわるより、長くじわりじわりと続けたい。農家もお客さんも私たちも喜ぶ大阪の元気につながってほしい」と話している。
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