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2008年03月01日

 ここ数年、ラグジュアリーブランドは、高級素材や手の込んだディテールで「ゴージャス」を表現してきた。高価なファーやハイテク素材、気が遠くなるようなししゅうの技が競われた。しかし、今シーズンは違う。注目ブランドのいくつかは、凝った素材や手の技よりも、フォルムやシルエットでいかに新しい提案ができるかに重点を起き始めている。



イヴ・サンローラン(08~09年秋冬パリコレクション)


ジャンバティスタ・ヴァリ(08~09年秋冬パリコレクション)


ヴァレンティノ(08~09年秋冬パリコレクション)

 08年秋冬パリコレクション6日目の28日は、イヴ・サンローランとジャンバティスタ・ヴァリがそんな傾向を鮮やかに提示してみせた。

 ステファノ・ピラーティが手がけて以来、毎シーズン注目度を上げているイヴ・サンローラン。今期は、ボヘミアンスタイルや70年代調などのトレンドには背を向けて、ただひたすら新しいフォルムとシルエットを追求した。

 メンズ風なスーツは、背中にややボリュームを入れたり、腰をペプラム状にふくらませたり。ドレスの腰や脇のふくらみにも、布だけで作っているとは思えない、建築的な立体感がある。セーターに合わせたフレアスカートは、極めてシンプル。しかし、その裾への広がり方が、特殊なカッティングの方法によって、思いがけないほど優美なシルエットを描くのだ。

 ダブルフェースやフェルトなど造形しやすい軽い素材を使った。フォルムとシルエットを浮き彫りにするために、黒やグレー、ベージュなどの無彩色を中心に用い、会場も服だけが浮き上がるように白い布でテント風に覆った。ヘアは無個性を装うようなテクノカット、顔はサングラスで隠した。

 テーラリングやスタイルなどでブランドの伝統をただ現代的に復元させるだけでなく、次の新しい一歩を探った点で、イヴ・サンローランは群を抜いた。

 ジャンバティスタ・ヴァリも新しい形のクラシックスタイルを目指した。観客の度肝を抜いたのは、そのフォルムだ。前から見ると上品で可愛らしいサテンのドレスやダウンジャケットは、うしろに大きなこぶ状のふくらみを背負っていたのだから。

 甲虫や貝を思わせるその丸みは、ゴージャスなファーコートの背や、エレガントなミニドレスの腰にも盛られる。シンプルな赤いマーメードドレスに飾られるのは、大きな海綿のような襟。色は淡いピンクやオフホワイトなどの優しいトーン。一見、異様なようだが、入念に計算されたダイナミックな造形が美しい。形の豪華さが魅力だ。

 昨日のエマニュエル・ウンガロに続いて、ヴァレンティノのデザイナー交代のお披露目ショーがあった。先月引退した創始者ヴァレンチノ・ガラウァーニに代わって、元グッチのデザイナーだった35歳のイタリア人女性アレッサンドラ・ファッキネッティが担当。作品は若々しく、モードっぽく変わった。

 まず、服のふくらみの度合いがこれまでとは違う。ガラヴァーニ時代には考えられないかった量感のドレープやフリル、アシメトリーな裾。首から離れたハイネックのドレープは腰にボリュームを盛り、ブランドカラーの赤は少しくすませた。十八番の細かいプリーツは大きく波打たせた。ヴァレンティノというよりも、ファッキネッティ色の強いコレクション。デザイナーは「ブランドらしさにこだわるよりも、自分らしい繊細さを出発点にしようと思った。その上でブランドの伝統を自分なりにツイストしながら取り入れた」と舞台裏で語った。

 大胆でロマンチックな作風に新しいファンは増えそう。一方、いかにもリッチな正統派スタイルのファンだった顧客たちがどんな反応を示すかが注目される。

 (編集委員・高橋牧子、写真は大原広和氏撮影)
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