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文・イラスト:内澤旬子

2009年7月30日10時46分                                    ソーシャルブックマーク

 いくら月を見るのが目的とはいえ、あんなにつまらん海岸にもう一度宿泊するのはどう考えても嫌だ。一応休暇も兼ねているのだし。月の出だけを観音崎で見てから移動して夜半の月を稲村ケ崎で見るというのはどうだろうかと、観音崎-稲村ケ崎間をタクシーで移動した場合の料金をたずねたら、とんでもない金額で仰天した。たっぷり一時間かかるのだ。三浦半島を横切るのは結構大変らしいのだ。

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 あまり名案が浮かばないまま、五月の満月が迫ってきた。宿をとるなら早くしなければならない。実はもうひとつよく行く海岸があった。逗子葉山である。逗子駅からバスで行くその海岸線は、子供の頃から海水浴で通っていた。ここ数年でカフェや飲食店が増えてフラフラするのに実に楽しい。夏になれば砂浜にシャレた海の家もできる。宿を検索したらそれなりにある。

 しかし葉山は西向きの海岸線なのだ。月の出はもちろん見えないだろうし、一番良く見えるのが月の入りとなると、なあ。南中時にも海面に出てないなんてことになりそうだよなあ。だいいち葉山の海の家で遊んでいて月を眺めたことないもんなあ。

 仕方なく、もう一度稲村ケ崎から見ることにした。できれば鎌倉プリンスホテルは泊まりたくない。となると、オーシャンビューの部屋のあるホテルは、鎌倉パークホテルしかない。稲村ケ崎と長谷の間の海岸線に立地している。部屋から海が見えるのかどうかは、HPで見る限り、果てしなく微妙だが、これだけ海沿いならば夜中に外に出てもいいだろう。門限のある旅館や民宿と違って夜中でも外に出ていいのがホテルのいいところだ。

 そう思って空室を照会したところ、目的の5月20日だけみごとに埋まっている。平日なのに?? 満月を目指して泊まる人がいるとは思えないのだが。たまにこういうことがある。

 ところでオーシャンビューのホテルだけでなくても、景色のよいホテルなら、今月は20日が満月ですとか、満月を売りにすれば結構いいんじゃないかと思うんだが、どこのホテルも夕日ばかりを売りにする。たしかに夕日は毎日晴れてりゃ毎日見れるからねえ。しかし満月だって、このあたりと書けばそれなりに「あら素敵」と予約が入りそうなものだが。天気で見えなくなるのは同じなのだから。

 仕方なくまた鎌倉プリンスホテルに予約をいれる。2008年5月20日は、19時11分の月の出の月齢が14.9である。長谷か稲村ケ崎の海岸に月が現れる九時過ぎに月齢15.0となる。

 ホテルにチェックインしてから夕食を食べに長谷に出たものの、目当ての店がことごとく休み。鎌倉の飲食店は月曜日定休が多いのだが。店を探すうちに御成まで歩いてしまったのでそのまま小町通りの裏手の音楽カフェGOATEEで濃いめのコーヒーとケーキを食べる。空には雲が厚く敷きこまれている。またダメだこれは。一応休暇なので、いつも携帯しているパソコンを持ってきていない。その分というのは変だが、厚さ五センチちかくある大判の本を持ってきていた。テーブルに広げなければ読めない本なので、こういうカフェで読むのが一番良い。もう今日は月のことは忘れてこの本を読んで過ごせばそれでいいやと、しばし時間を忘れる。とはいえ店にいる客が自分だけになったため、なんとなく居づらくなる。鎌倉の平日の夜は本当に寂しい。

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