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2009年8月10日                                                    筆者 多田千香子

写真ヴァラナシを案内してくれたインドの友とマユチャン

写真牛も人も、ガンジス河に抱かれて

写真午前5時、沐浴する人たち=いずれもインド・ヴァラナシ

写真サールナートのチャイ屋さん。こし器でチャイをいれる

写真バイクに乗せてもらってさぁ出発=いずれもインド・サールナート

 ヒンドゥー教の聖地ヴァラナシに着いた。デリーからジェット・エアで1時間…のはずが遅れたうえ、カジュラホーを経由して3時間かかった。インドの友3人が出迎えてくれた。といっても初対面。ミノリさん一家のデリーの知人が、ヴァラナシの知人に連絡をとってくれたのだった。一家にくっついたコバンザメ旅行者としては恐縮するやら、ありがたいやら。

 ガンジス河に抱かれたこの街に来るのも2回目になる。遠藤周作「深い河」を読んだ10年前、訪れた。作中に出る「久美子の家」や「ホテル・ド・パリ」に泊まった。川で沐浴もした。といっても胸元あたりまで浸かって立ち泳ぎした程度だった。ミノリさんには驚かれた。「勇気あるね、今回も泳ぐの?」。うーん、居候の身だから無謀はできないかも。

 車が入れない交差点から川まで3キロを歩く。まっすぐなんて進めない。階段1段ずつに物を乞う人が座っている。赤いサリーを着た女性や子どもに腕をつかまれる。牛やサル、ヤギ、ロバ、ブタ、犬も人と同じように歩いている。「すごいね」。ミノリさんの娘マユチャンは驚いていた。ここでは人も動物も、生も死も、みんな一緒くた。どちらであろうとたいした意味なんてないように思える。

 巡礼者で一番にぎわう沐浴場ダシャーシュワメード・ガートから8人で手漕ぎ船に乗った。1時間半ほど借りて400ルピー(800円)だった。水は茶色いけれど汚い感じはしない。サリー姿のまま水に入っている女性たちは気持ちよさそう。ミノリさんは「沐浴できなくはないわねぇ」。納得したようだった。牛たちが水遊びするわきで男たちがシャンプーする。頭を泡アワさせて、ゴーシゴシ。水で洗っているのに妙に泡立ちがいい。なぜだろう…。火葬場近くではオレンジ色の布にくるまれた遺体が次々、川に浸されていた。そのわきで男たちは顔を洗う。みんな決まって両手をシャカシャカ忙しく上下させている。インド式洗顔はせわしないのね。

 インドの友カムラカールたちが夜、火祭りのような礼拝・プージャーに案内してくれた。若い僧侶が炎を操り、群衆を祈りへ誘う。なんだか異次元に迷い込んだよう。熱気がすごい。

 日の出を見ようと午前5時、岸辺に舞い戻った。近寄ってきた男が「祈りを捧げろ」という。なぜか祈りたい気分になった。おでこにティラカと呼ばれる色粉をつけられ、言われるがままに祈りの言葉を繰り返す。花を水面に流し、頭にガンジス河の水をかけられた。意外と冷たいな。じゃあね、と別れようとしたら「外国人だから10ドル(1000円)出せ。寺に持っていくから」と言われた。ドルなんて持っていない、ルピーならあるけれど。そういって何も払わず別れた。

 戻るとカムラカールがチャイ売りから、1杯2ルピー(4円)のチャイを買ってくれた。素焼きのカップ入りを手にとる。甘くて濃厚で、ショウガが効いていた。おいしい。「カップを持って帰りたい」。彼に言うと、首をかしげるように左右に振っている。あれ、困らせちゃったかな。そう思っていたら、新しいのを2個もらってきてくれた。

 ブッダが初めて説法をしたサールナートでは、本格的なチャイ屋さんのチャイを飲んだ。土のかまどにお鍋をのせてお茶をわかす。氷砂糖を手づかみでサッと投げ入れる。くつくつ煮立てている間、スパイスを磨製石器のような石ですりつぶす。さらに煮たら、ハチがワンサカたかっているこし器に通してカップに注いでいた。ずっと無言で無駄な動きもない。求道者みたい。かっこいい。ガンジス河のほとりで飲んだのとはまた一味ちがう。たくさんのスパイスがバラバラに主張するわけではなく、ピタリまとまっている。長年のカンなんだろうな。4ルピー(8円)するだけあった。

 だんだんインドになじんできたみたい。エアコンの効いたレンタカーに乗っているのが物足りなくなった。「おんぶに抱っこ旅」をしておきながら勝手な話だけれど…。昼食に向かおうとバイクにまたがったカムラカールに頼む。「後ろに乗せてもらえる?」。彼は首を左右にかしげながらも手招きしてくれた。わーい。オートリキシャーや自転車や牛を追い越す。38度だって湿気は少ない。毛布みたいな空気だって風になれば心地いい。車からミノリさんの娘マユチャンが写真を撮ってくれた。「ローマの休日みたいだったね!」

 ヴァラナシからデリーに戻って教わった。インド式だと首を横に倒すのは「OK」や「ウンウン」といったうなずきに値するジェスチャーだと…。なーんだ。カムラカールはいつも自信なさげに見えたけれど、あれはイエスの意味だったんだ。ウンウンOK、と頼もしく引き受けてくれていたんだ。

 マユちゃんから写真をもらった。バイクにまたがった私がニンマリしていた。我ながらすごく楽しそう。でもよく見ると、おでこに付いた朱の色粉がただれている。バイクから転んで流血したのに笑っているみたい。かなりあやしい人になっていた。ちょっと近寄りがたいという意味では王女だったかも…。

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