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2009年10月10日                                   ライター・さかせがわ猫丸

写真宝塚大劇場公演「ラストプレイ」より=撮影・岸隆子

 月組トップスター・瀬奈じゅん(せな・じゅん)さんの退団公演となる「『ラストプレイ』-祈りのように-」が、10月9日(金)、宝塚大劇場で初日を迎えました。瀬奈さんはこれまで、死神、美女、皇子、悪魔、王妃、魅惑の王子、下町の青年、プレイボーイ…男になったり女になったり、コメディからシリアスまで幅広く、実に多彩な姿で私たちを魅了してくれましたが、最後はやっぱり一番似合う〈クールな男〉で締めてほしい。今回の「ラストプレイ」はそんなファンの願いに、直球ストライクで応えてくれそうな予感がポスターからにじみでていましたが、はたして舞台は…!?

 瀬奈さん演じるアリステアは孤児院育ちで、類まれなるピアノの才能に恵まれていた。周囲の期待はあまりにも大きくて、そのプレッシャーから大切なコンクールで意識を失うという最悪の結果を招いてしまう。もうここにはいられないと、孤児院を去るアリステア。町をさまよううち、霧矢大夢(きりや・ひろむ)さん演じる古美術商ムーアと出会い、生活は落ち着きを取り戻すが、ピアノに対するトラウマが消えることはない。だが気がつくと指はいつも鍵盤をたたくように動いていた…。

 喪失感に襲われ苦悩する瀬奈さんは実にカッコイイ。花組公演「天使の季節」でコミカルにサンバを踊っていた時も最高にキュートでしたが、やっぱり男役ならこの「眉間にシワ」が見てみたいですよね。今回同時退団する羽桜しずく(はざくら・しずく)さん演じるヘレナという幼馴染はいたものの、恋愛には発展せず、終始アリステアの人生につきまとう影に焦点を当てていたのは芝居としても新鮮です。

 そして、このところ月組はトップ娘役を特定しない体制をとっており、芝居・ショーともに瀬奈さんと霧矢さんががっぷり組むケースが少なくありませんでしたが、その点も最後まで徹底していました。2人が言い争ったり、互いを思いやったり、セリフの応酬も心憎く、ぐいぐい引き込まれます。タイプが違えど息ぴったりだったコンビもこれで見納めかと思うと、まばたきするのも惜しくなってしまいます。次期トップ就任が決定している霧矢さんは、一人だけマイクが違うのか?と思わせるほど素晴らしい滑舌と軸のぶれないダンスがますます冴え渡り、こちらもさすがでした。

 古美術鑑定家グラハムには専科の未沙のえるさん。巧みな芝居で舞台を引き締めつつも、いつも必ずどこかで笑いをくださるのですが、今回も存分に発揮されています。お楽しみに! 裏社会の男ジークムントの遼河はるひ(りょうが・はるひ)さん、ムーアの恋人エスメラルダを演じた城咲あい(しろさき・あい)さんも、この公演が最後なので、しっかりまぶたに焼き付けないといけませんね。

 物語は、非合法な取引にも手を染めていたムーアが裏社会の有力者に目をつけられたことから、あやしい雲行きへと展開していく。ムーアは持ちかけられた取引を断るため、アリステアにエスメラルダへの伝言を託し、危険を承知で一人交渉に出かけた。だが、事態は思わぬ方向へ――。

 男同士の友情を描くドラマは未来の月組へバトンをつなぐ姿と、感動のラストシーンは卒業していく瀬奈さんと、オーバーラップします。男役・瀬奈じゅんの、これがまさしく「ラストプレイ」。めいっぱい堪能してください。
 
 ショーは「Heat on Beat!」と、その名の通り、熱くビートが弾けるショーでした。

 特に椅子を絡めて踊るシーンは、あまり見たことがない演出で妖しさたっぷりです。そして、瀬奈さんの勝負服(と私が勝手に思ってる)ゴージャスなマタドール姿で、これまた瀬奈さんのために作られた曲「EL VIENT」が披露されると、白い衣装の月組のみなさんがバックで盛り上げるように踊る。このシーンはいかにもサヨナラっぽくて、思わずうるっと来てしまいました。

 瀬奈さんのダンスは肩や腰の使い方にとても特長があって、仮面をかぶって踊っていても絶対に当てられる自信があります。でもきっとそれでこそ「宝塚の男役」ですよね。ここでしか味わえないそのテクニック。今回のショーは、そんな彼女のダンスが存分に堪能できるのです。

 それをひときわ発揮するのが、タンゴのシーンでした。夜会の男女が踊る中、瀬奈さんが黒コートに黒い帽子を目深にかぶって登場するのですが、このコートを脱いだら目が覚めるようなショッキングピンクのジャケットという、あまりの粋さに思わず「やられた」と唸ってしまったほど。続く群舞のあとは、ジャケットもブーツも脱いで裸足でソロダンスへ。広い舞台を一人でかなりの時間、踊り切る姿は圧巻です。最後はもちろん壮大な黒燕尾と、男役集大成のラストステージにふさわしく、魅力が最大限に発揮されていました。

 芝居もショーも男前全開! 瀬奈じゅん、最後の花道を飾ります。

   ◇

【公演案内】 ミュージカル・ロマン「『ラストプレイ』-祈りのように-」 作・演出/正塚晴彦 〈宝塚大劇場〉:10月9日~11月9日(詳しくは宝塚歌劇公演案内へ)/〈東京宝塚劇場〉:11月27日~12月27日(詳しくは宝塚歌劇公演案内へ

筆者プロフィール

さかせがわ猫丸
大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コムに「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。
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