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2009年10月19日                               筆者 多田千香子

写真手に入ったクリで渋皮煮。台湾旅行で手に入れた「大同電鍋」で=京都市中京区

写真渋皮煮を入れたコーヒー味のケーキ

写真定番の「黙らせサブレ」

写真パリ流にバラをいけるマリさん

写真公文庫カフェでは新著にちなんだ限定メニュー「ほんのり白ワイン風味チーズケーキ」も=いずれも岡山市北区・ルネスホール

 岡山で出版イベントを開いた。場所は日銀岡山支店だったルネスホール内にあるカフェ…のはずだった。年明けから温めていた企画は、だんだん大ごとになった。カフェのクミコさんは言った。「どうせやるなら徹底的に」。器が300人まで入れるホールそのものに変更になった。スカスカだったらどうしよう。タイトルは「フランスのおやつと花に恋をして」。私がおやつと話を披露する。パリで学んだマリさんに花を添えてもらうことにもなった。ガラにもなく華々しい。

 おやつの準備を考えて定員30人にした。それでも故郷を出て15年、あまり知り合いもいない。来てもらえるだろうか。仕込むお菓子も心配だった。モンブランを作りたいが台風のせいでクリが手に入らない。自分でも拾いに行く。10人ぐらいなら何とかなるかな。思っていたら2週間前、クミコさんから電話があった。30人は軽く超えそうだという。うれしいけれど、どうしよう、クリ。

 福知山の八百屋・カオルさんに頼む。「高くなっちゃって…」。台風前の4倍の値段に化けていた。電話の声が申し訳なさそうだった。私も泣きそう。でもやっぱり秋はクリでしょう。丹波栗10キロを市場から届けてもらった。ホッ。400個はありそうだ。1つずつ鬼皮をむく。鍋5つで煮て渋皮煮にした。コーヒー味のケーキに焼き込んだり、裏ごししてクリームにしたり。もう何人だって、どんとこい。前々日に50セットをこしらえた。

 前日には50人を超えた。うれしいな。当日午前10時、会場に入った。東京のアミさんが縫ってくれた青の勝負エプロンをつける。よーいどん。ホール裏のキッチンで1人、定番の「黙らせサブレ」やケーキを袋詰めする。途中でスタッフに呼ばれた。「大学時代の友人という方が来ていますよ」。だれだろう。いまでも連絡を取り合う人なんてほとんどいない。手をふきながら表に出る。長身の相手に気付く。思わず両手が口を覆う。うそー、コサカさん。小学校の先生になった2年上の先輩だった。新聞で私の名前を見かけたらしい。まさか…と思って来てくれたという。

 「20年ぶりじゃなぁ」。に、にじゅうねん…。くらくらした。柱に寄りかかりそうになる。「いや、まだ18年です」。ふだんは大ざっぱなのに、意味もなく正確になった。まじまじと姿に見入る。えーと、足は2本あるな。ユーレイじゃない。思わず確かめた。18年前と変わっていなかった。「小学生相手にイベントをしたければいつでも声をかけてください。50人ぐらいならすぐ集まります」。名刺裏の手書きがなつかしい。夕方からのイベントにも来てくれるという。

 学内誌に先輩が寄せる文章が好きだった。あこがれの人の前で話すなんて恥ずかしいような。すっかり動揺してしまった。キャンパスの思い出に浸っている場合じゃない。いかん、いかん。鬼の形相でモンブランをテーブルに並べる。ギリギリ間に合った。

 開演30分前から続々、人がやってきた。50人のうちほとんどは「はじめまして」の人たちだった。チラシを見たり、クミコさんが誘ってくれたり。涙が出そう。年初めの同窓会で25年ぶりに再会した中学の同級生ノンちゃん、マサヨさんも来てくれた。すぐ隣に18年ぶりのコサカさんが座っていた。ドキドキするなぁ、もう。

 エプロンを巻いたままマイクを握る。120分、話し続けた。「同窓会ゾーン」に時折、目を向ける。「がんばれ!」と言わんばかりの笑顔が3つ、並んでいる。ほっとした。

 お開きになった後もたくさんの人と言葉を交わす。大学の後輩にあたる人、ずっとコラムを読んでくれている女性…。やっぱり岡山はあたたかい。

 ノンちゃん、マサヨさんとはフランス式に抱き合って別れた。コサカさんとは「じゃ、また」。えー、それだけ。物足りない。フランス式は自粛してしまった。まぁいっか。ひょっこり会いにきてくれた。奇跡みたい。本気で思う。生きていてよかった。次は岡山の小学生50人と、何しよう。

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